大判例

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東京地方裁判所 平成4年(ワ)16620号 判決

原告 大瀬堯

右訴訟代理人弁護士 河合弘之

同 千原曜

同 久保田理子

同 清水三七雄

同 大久保理

同 上西浩一

同 原口健

同 中小路大

同 河野弘香

被告 東京信用保証協会

右代表者理事 貫洞哲夫

右訴訟代理人弁護士 成冨安信

同 青木俊文

同 田中等

同 高橋英一

同 高見之雄

同 小島俊明

同 長尾亮

同 清水修

同 梶原則子

同 上松正明

同 川内律子

主文

一、被告が別紙物件目録記載の不動産に設定した東京法務局八王子支局昭和五八年三月一四日受付第一二三五四号根抵当権設定登記にかかる根抵当権の被担保債権は金三九八九万七一一二円を超えて存在しないことを確認する。

二、前項の根抵当権の被担保債権の履行期は未だ到来していないことを確認する。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、原告

主文同旨

二、被告

1. 原告の請求を棄却する。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、原告の請求原因

1. 別紙物件目録記載の不動産(以下「本件不動産」という。)は、原告の所有であり、被告は、本件不動産について主文掲記の根抵当権設定登記を経由している(この根抵当権設定登記にかかる根抵当権を、以下「本件根抵当権」という。)。

2. 本件根抵当権の被担保債権(以下「本件債権」という。)は、次のとおり更生債権である。すなわち、

(一)  本件不動産は株式会社アーク(旧商号スガデン)が昭和五八年三月八日に売買により取得し、同日移転登記を経由したものであり、本件根抵当権は同月一四日にアークが被告に対して両者間で行われる保証委託取引を担保するために設定したものである。

(二)  ところが、アークについては昭和五九年九月一日に更生手続開始決定がされ(東京地方裁判所八王子支部昭和五九年(ミ)第二号)、同六三年九月一二日に更生計画認可がされたが、被告が本件根抵当権の被担保債権であると主張する債権(被告が届け出た債権)は、いずれも右の更生手続開始決定以前の原因に基づいて発生した債権である。

(三)  そして、本件根抵当権の被担保債権(本件債権)は、右会社更生手続において更生担保権として確定した。

被告の右会社更生事件における総更生債権額は金七二二四万四〇〇〇円であり、平成二年を第一回とし、平成一九年まで一八回に亘って弁済されるべきものとなり、本件根抵当権により担保される債権(更生担保権)額は金四二二四万四〇〇〇円と確定した。

3. 原告とアークは平成二年九月二六日に裁判上の和解(東京地方裁判所八王子支部昭和六三年(ワ)第一六六四号)をもって、次の要旨の和解をした(以下「本件和解」という。)。

(一)  アークは原告に対し、本件不動産の所有権を移転し、登記手続をする。

(二)  原告は和解金として金一〇〇〇万円を支払う。

(三)  原告はアークの被告に対する更生債権中、本件不動産分の金四二二四万四〇〇〇円について債務引受をし、更生計画にしたがって弁済する。

(四)  和解は更生裁判所の許可を停止条件とする。

4. 前項の和解(本件和解)は更生裁判所の許可を得たので、条件が成就し、原告はアークに対し、約定に従い平成二年九月に債務引受額の第一回の支払いとして金二三四万六八八八円を支払、アークはこれを含めて被告に金四〇一万三五六五円を弁済した。

5. したがって、本件根抵当権の被担保債権(本件債権)は、前記金四二二四万四〇〇〇円から金二三四万六八八八円を控除した残額金三九八九万七一一二円であり、その履行期は未だ到来していないことになる。

なお、本件については会社更生法二四〇条二項の適用はない。すなわち、

(一)  会社更生法二四〇条二項は、更生計画は更生被告又は更生担保権者が会社の保証人その他会社とともに債務を負担する者に対して有する権利および物上保証人に対する権利には影響を及ぼさない旨規定しているが、右規定は更生手続開始決定の時点において更生被告の物上保証人であったものに更生手続開始決定および更生計画認可の効力が及ばないとしたものであるから、文理解釈上、本件根抵当権の被担保債権(本件債権)が更生担保権として確定したのちに、本件根抵当権の対象不動産を原告が譲り受けた場合である本件には適用はない。

(二)  また、実質的にこれを考えても、被告は更生手続開始決定当時は本件債権については更生計画にしたがって弁済を受けるしかなかったのであるから、本件根抵当権に基づく競売により一括弁済を受けうることになれば、それはまさしく「棚ぼた」である。一方、原告は裁判所の許可を得て本件不動産を取得し、かつ物上保証人たる地位についたものであり、更生計画にしたがつて期限の利益を得ることができることを前提として本件和解をしたのであるから、一括弁済を強いられるとすると、原告の利益は著しく害される。さらに、アークの利害についてみても、仮に原告が競売によって一括弁済をしたとすると、これにより原告が取得する求償債権について履行に応じなければならず、法律関係が錯綜するばかりでなく更生会社としての更生計画に従った再建にも支障を及ぼしかねない。一般的にみても、本件のような場合に競売が認められるとすれば更生担保権確定後に対象不動産の値上がり等により担保余剰が生じて、更生会社が対象不動産を譲渡することによって資金繰りをなそうとしても更生担保権者の協力のない限り不動産の譲渡は不可能となり、会社の再建を大きく妨げることとなる。

6. しかるに、被告は東京地方裁判所八王子支部に対し本件根抵当権に基づいて本件不動産の競売の申立てをし、同裁判所同支部は平成三年三月一五日に本件不動産について不動産競売の開始決定をした(東京地方裁判所八王子支部平成三年(ケ)第二〇五号)。

7. よって、原告は被告に対し、本件不動産に設定された本件根抵当権の被担保債権が担保する債務は金三九八九万七一一二円を超えては存在しないことの確認および本件根抵当権の被担保債権の履行期は未だ到来していないことの確認を求める。

二、請求原因に対する被告の認否

1. 原告の請求原因1は認める。

2. 同2柱書は争う。

(一)  同2(一)のうちアークが本件不動産の所有権を取得したことは否認する。その余は認める。

後記被告の主張のとおり、アークの所有権移転登記は実体の伴わないものである。

(二)  同2(二)のうち、原告主張のとおり更生手続開始決定および更生計画認可がされたことは認める。

3. 同3は認める。

但し、後記被告の主張のとおり、本件和解は本件不動産が原告の所有になった原因となるものではない。

4. 同4は認める。

5. 同5は争う。

(一)  原告は本件和解によって原告が本件不動産の所有権を取得したことを前提として会社更生法二四〇条二項の適用の有無を論じているが、原告は本件和解によって本件不動産の所有権を取得したわけではないから、その主張の前提において既に理由がない。

(二)  また、本件和解によって原告が本件不動産を取得したものとしても、後記被告の主張に記載のとおり、会社更生法二四〇条二項の適用があると解すべきである。

6. 同6は認める。

三、被告の主張

(確認の利益について)

1. 本件訴訟は、東京地方裁判所八王子支部がなした本件不動産の競売開始決定の取消しを求めることを目的として提起されたものであり、その理由は本件債権が未だ弁済期が到来していないというにある。

2. しかしながら、原告が本件訴訟で勝訴したとしても、その勝訴判決は担保権実行としての競売手続の取り消しの原因となる文書に該当しないから、原告は本件訴訟に勝訴しても本件不動産の競売開始決定の取消しを得ることはできない。

3. 原告は本件債権については物上保証人であるにすぎず、本件不動産について競売開始決定の取り消しを得ることができない以上、本件債権の履行期についてなんらの利害関係もない。

4. したがって、原告には確認の利益がない。

(本案について)

1. 被告は、昭和五八年三月一四日にアーク(旧商号スガデン)との間で本件不動産について被告とアークとの信用保証委託取引から生じる債権を被担保債権とする次の根抵当権(本件根抵当権)設定契約を締結し、その根抵当権設定登記を経由した。

(一) 極度額 金五〇〇〇万円

(二) 被担保債権の範囲 保証委託取引による一切の債権

(三) 債務者 アーク

(四) 確定期日 定めない

2. 被告は、平成二年一〇月一六日現在でアークに対して別紙記載のとおり、求償債権元本合計金七〇三六万三四八三円と各遅延損害金を有する。

右債権は本件根抵当権の被担保債権(本件債権)である。

3. 本件根抵当権設定当時、本件不動産は、原告の所有にかかるものであった。すなわち、

(一) 原告は本件不動産のもとの所有者であったところ、真実は売買契約が存在しないのに昭和五八年三月八日で売買を理由に本件不動産についてアークに対して所有権移転登記手続を経由した。

このことは、昭和六三年九月九日に原告がアークに対して売買契約の無効ないし不存在を主張して所有権移転登記抹消を求め、被告に対してその承諾を求める訴え(東京地方裁判所八王子支部昭和六三年(ワ)第一六六四号所有権移転登記抹消登記手続等請求事件、以下「別件訴訟」という。)を提起し、同訴訟において本件不動産について真正なる登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をなすことを合意していることから明らかである。

(二) なお、被告は、本件不動産について経由されている前項のアークに対する所有権移転登記を善意・無過失にて信頼してアークと本件根抵当権の設定契約を締結し、その根抵当権設定登記手続を経由しているから、原告は被告に対し、アークとの間の売買契約の無効を主張することはできず、本件根抵当権の設定は有効である。

4. 仮に、原告が本件不動産を本件和解により取得したとしても、会社更生法二四〇条二項の適用により、被告は本件不動産について本件根抵当権を実行し得る。すなわち、

(一) 更生計画の認可決定後に更生計画の予想しない更生担保権の目的財産を譲渡する場合には、更生担保権者の同意のもとにその担保権の登記を抹消して譲り受けるか、担保権の負担付のまま譲り受けるかの方法が考えられるが、いずれの方法をとるとしても当該不動産は実体的にも登記簿上も更生計画の手続に服さない自由財産となる。そして、当該財産の譲受人が担保権の負担付のまま譲り受ける方法を選んだ場合、更生担保権は更生手続による拘束をはずれるのであるから、更生担保権者としては抵当権の実行を余儀なくされることは当然である。

これに対して、更生担保権者の権利が更生計画により変更を受けた権利であることをそのまま譲受人に引き継がせるという財産の譲渡方法が認められない。なぜならば、これを自由になし得るものとすれば、更生計画決定時には更生会社の存続のために当該財産が不可欠なものとして多数決で当該更生担保権者の権利を変更させておきながら、いったん更生計画が認可されるや当該目的不動産を譲渡して更生会社が対価を取得することを許すこととなるところ、この対価は更生担保権者の債権の弁済には使用されないのであるから、著しく衡平を欠いた結果となるからである。

このことは会社更生法の理念である公正、衡平の要請にまったく反するものであり、詐欺的な更生計画を許すもので、到底認めることはできない。

(二) 一方、更生計画認可により更生担保権が変容を受けたか否かは会社更生法二四〇条二項の解釈によることとなるが、一般に、債権者が保証人や連帯保証人の負担を求めるのは、一人の債務者についての無資力の危険を分散することを意図したものであり、他方、保証人らは、共同債務者・主債務者の資力不足により自己の負担が債権者との間で過重されることを予期すべきという趣旨をあらわしたものであり、右規定の「会社以外の者が更生担保権者のために供した担保」の中には、更生担保権者が物上保証人に対して有する権利だけでなく、第三取得者に対する権利も含まれるところ、第三取得者が更生計画認可後に生じた場合であっても当該の第三取得者には自己が担保権を引き継ぐことを予期しないといった事情はないのであり、むしろ登記簿上は担保権の負担のあることを当然予期すべきであるというべく、抵当権を実行されることを予期して利害関係に入るのが通常である。

他方、更生担保権者の権利が更生計画により変更を受けた権利であることをそのまま譲受人に引き継がせるという財産の譲渡方法を認めるとすれば、更生担保権者は著しく不利益を被ることは前記のとおりであって、この不利益をそのまま更生担保権者に負担させることができない以上、担保権の実行を認めることは債権者の期待に沿うものである。

四、被告の本案の主張に対する原告の認否

1. 被告の主張1(本件根抵当権およびその登記の存在)は認める。

2. 同2(被告の求償債権の存在)は知らない。

なお、仮に、被告主張の債権が存在していたとしても、それは本件更生計画の認可により変容したものである。

3. 同3(原告の本件不動産の所有権取得原因および民法九四条二項の類推適用)は否認ないし争う。

別件訴訟は、売買契約の無効ないし不存在のほかむしろ詐欺による取消が主要な争点となっており、本件和解において被告主張の登記原因(真正なる登記名義の回復)によったのは和解金を捻出するために金員を借り入れ金融機関の意向と手続費用を考慮したためであり、原告は本件和解によって本件不動産の所有権を取得している。

4. 同4(会社更生法二四〇条二項の適用の有無)は争う。

第三、証拠関係〈省略〉

理由

(確認の利益について)

一、本件が、本件不動産について本件根抵当権に基づいて東京地方裁判所八王子支部がなした競売開始決定の取消しを求めることを目的として、本件債権の履行期および一定額以上の債務額の不存在という法律関係の確認を求めるものであることは原告の主張に徴して明らかである。

二、確認の訴えは、その確認によって原告の現在の法的地位の不利益、不安定を除去し得る場合に限り許されるものであるから、本件において原告の求める法律関係を確認することにより前記競売開始決定が存続することによって原告が被る不利益が除去されるか否かが問題であるが、これを肯定すべきものと考える。その理由は次のとおりである。

1. 原告は、本件不動産の所有者ではあるが、本件債権の債務者ではないから(当事者間に争いがない。)、一応、本件債権の内容、額等について直接債務不存在(ないし存在)確認請求を提起することはできないと考えられる。

しかしながら、原告は、本件根抵当権が存在すること自体は争わないものの、本件債権の履行期が到来していないので、これに基づく競売開始決定は許されないものである旨の主張をしているところ(原告の主張に徴して明らかである。)、本件債権の履行期が到来していないとすれば、当然これに基づく競売開始決定は許されないものとなるのであるから、競売手続の終了までに、手続上、その主張の当否が判断される機会が与えられなければならないはずである(競売手続が終了した場合、民事執行法一八四条により、原告は本件不動産の所有権を喪失する。)。

2. この場合、第一に考えられるのは競売手続の中で不服申立てをすることであるが(競売開始決定に対する異議)、この異議が却下もしくは棄却された場合には更に不服申立てはできないし(成立について争いのない甲第二号証によれば、原告は既に競売開始決定に対して執行異議の申立てをし、却下されていることが認められる。)、右却下もしくは棄却の決定にはもとより既判力はない。

したがって、判決手続をもって原告の主張の当否が判断されるべきであり、その意味で本件訴えは原告の不利益除去のために必要であるとともに、他に原告にとり採り得る手段もない。

3. 被告は、本件に原告が勝訴しても競売開始決定の取消しを得ることはできない旨主張するが、民事執行法一八三条一項一号ないしその類推適用により、原告は本件の勝訴判決によって競売開始決定の停止・取消を得ることができるものと解すべきであるから、被告の主張は失当である。

三、よって、被告の本案前の主張は失当であり、進んで本案について判断することとする。

(本案について)

一、原告の請求原因1(本件不動産が原告の所有であり、被告が本件不動産について主文掲記の根抵当権設定登記を経由していること)は、当事者間に争いがない。

二、そこで、主文掲記の根抵当権設定登記にかかる根抵当権(本件根抵当権)の被担保債権(本件債権)について検討する。

1. まず、本件不動産について昭和五八年三月八日に売買を原因とするアークへの所有権移転登記手続が経由され、本件根抵当権は同月一四日にアークが被告に対して両者間で行われる保証委託取引を担保するために設定したものであること(原告の請求原因2(一))、その後アークについて更生手続開始決定がされ、次いで昭和六三年九月一三日に更生計画の認可がされ(原告の請求原因2(二))、その後、アークと原告は本件和解をしたこと(原告の請求原因3)は、いずれも当事者間に争いがない。

2. 被告は、原告は本件和解によって所有権を取得したのでなく、そもそもの所有者であり、アークへの所有権移転登記は実体の伴わないものであった旨の主張をする(被告の主張3(一)参照)ので、その点について考えるに、被告は、一方では、被告は本件根抵当権設定当時アークについて設定されている所有権移転登記を善意・無過失で信頼して本件根抵当権を設定したから、民法九四条二項の類推適用により原告はアークとの間の売買の無効を被告に対して主張できず、本件根抵当権の設定は有効である旨主張するところ(被告の主張3(二))、仮にそうとすると、当然、被告についてアークが真実の所有者である場合以上に有利な地位を与える必要はないのであるから、アークが本件根抵当権設定当時真実の本件不動産の所有者であって、その後に原告が所有権をアークから取得した場合に被告が本件不動産について有する以上に、被告に有利な取扱いを是認することはできないというべきである。

したがって、原告が本件不動産を取得した原因が本件和解にあるとした場合に本件債権が更生担保権として更生計画にしたがって弁済を受けるほかないものとなるのであれば、本件根抵当権設定当時の本件不動産の真実の所有者がアークでなく原告であったとしても、同様に被告は本件債権について更生計画にしたがった弁済を受けるほかないものとなると解すべきであり、原告が本件和解により所有権を取得したのか否かは、さしあたり本件において、これを確定することを要しないものと解すべきである。

3. そこで、本件和解により原告が本件不動産の所有権を取得した場合における本件債権の運命についてみるに、被告は、本件債権については会社更生法二四〇条二項が適用され、更生計画とは無関係に権利行使をなし得る旨主張する(被告の主張4参照)。

なるほど、右同条同項は「更生計画は、更生債権者又は更生担保権者が会社の保証人その他会社とともに債務を負担するものに対して有する権利及び会社以外の者が更生債権者又は更生担保権者のために供した担保に影響を及ぼさない」旨定めており、本件の場合もこれに該当すると考えられなくもない。

しかしながら、右同条同項は、特に保証債務や担保権の附従性の例外を定めたものであるところ、これらの保証人や物上保証人は債権者に対する関係では会社が支払能力を喪失した場合にこれに代わって債権者を満足させる責を負うものであることゆえにこのような負担をさせることについては合理性があるといい得るが、更生手続開始後に更生担保権の付着した不動産の譲渡を受けたものについて、附従性の例外を認めるべき理由は乏しいといわざるを得ない。被告は、更生計画認可の後に目的不動産を譲渡して会社が対価を取得した場合に更生担保権者が弁済を受けられないのは著しく衡平を欠く旨主張するが(被告の主張4(一)参照)、そのことが衡平を欠くことになるとも思われないし、被告の主張を前提とした場合には、機動的に不必要な不動産を処分することができなくなるから、更生会社の適切な運営が困難となるおそれもある(なお、更生会社の財産の処分については裁判所の許可を必要とするから、不必要な会社財産の処分がされることはない。被告は更生計画の手続に服さないことを問題とするが、そのことによって特段更生担保権者に不利益が生じるとも思い難い。)。

4. したがって、更生手続開始後に更生担保権の負担付の不動産の譲渡があった場合には、会社更生法二四〇条二項の適用はないものと解すべきであるから、本件債権は更生計画の認可により変容したものというべきである(更生手続開始決定および更生計画認可の存在は当事者間に争いがない。また、被告の更生担保権額が金四二二四万四〇〇〇円であり、その弁済方法が原告主張のとおりであることは、被告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。)。

さらに、原告の請求原因4(本件和解の条件成就および原告の弁済関係)、6(被告の競売申立ておよび競売開始決定の存在)は当事者間に争いがない。

してみると、本件債権の内容は原告主張のとおりであることとなる(但し、原告の主張を前提とした場合、既に第二回以降の分割弁済のうち、何回から弁済期が到来していることとなるか、当事者双方から特段の主張もないので、この点については考慮しないこととする。)。

三、よって、原告の本訴請求はすべて理由があるので、これを認容することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 綿引穣)

〈以下省略〉

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